北海道からの息吹 ー最後の手紙によせてー
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目次
- 北海道苫小牧市在住、元苫小牧市議、伊藤千代子最後の手紙公開に尽力
- 2005年7月、苫小牧市で行われた「伊藤千代子最後の手紙公開記念の集い」事務局長。
- ※当該「こころざしの歌」を作り公表していたところ、諏訪市の今井清水さん始め、各地の作曲者によりこの詩に曲が付けられているそうです。
- 伊藤千代子最後の手紙公開記念
苫小牧の集い - 窓は 高くて小さいから
- どんなに晴れていても
- 日光は朝の一瞬だけ
- よろい戸だから外はまったく見えなかった
- たたみ二枚の独房というところ
- 暗くて 異様な臭気
- 蜘蛛の巣が無数に張りめぐっていた
- 拷問と虐待 高熱のなかで
- じっとりと湿ったせんべい蒲団に放り込まれた
- 千代子
- 愛するひとの
- ほんとうの言葉が訊きたくて
- 闇に向かって躰を凝らす
- 遠くから看守の靴音が近づくまでの
- いっとき
- 便器のふたをおこし、踏み台にして
- ようやく届いた小窓から
- ヂシバリの花をみた
- ※高い煉瓦の塀に沿ってまるい黄色な頭をユラユラとゆすぶっています。
- 強情な大変カのある面白い花なのですよ。
- 北海道の
- 私の街にも
- ヂシバリの花がゆれている
- 崖の斜面したたかに
- しろくて細い茎を四方に這わせ一節ごとに根を降ろしていく
- あたかも
- 崩れようとしている地面を縛るように
- かれんな黄花を咲かせる
- いたずらに茎や葉を摘むと
- 乳色の苦い汁を押し出す
- この汁で 何を護ろうというのだろう
- やがて花期が柊わると
- たった一個の砂粒ほどの種子をもった実が
- ミクロの翼で飛ぶ
- ※命あるものはみんなあらん限りに生きようとしているのですね。
- 生きようとするからこそ、その大切な命をも投げ出すのですね。
- いま
- この街の図書館に
- 千代子の
- さいごの手紙が公開されている
- ときを経て
- しなやかに芽吹いた
- いのちの音に触れたくて
- たくさんの人があつまってくる
- 日本国憲法
- 九条まもれと
- 夜道のあかり 風にふかれて
- ヂシバリの花がゆれている
- ※獄中さいごの手嫉から
- ある日
- 視点をかえて
- 北太平洋の上空からユーラシア大陸に向かって
- 左右によこたわる私の国をみた
- そのパートナーシップが問われている
- 日本列島
- アジアの胸元に
- 楚々と連なる
- そのすがたは
- みずからの尊厳に躰をはっている
- 裸婦像のようだ
- みずみずしい性を秘めてこんなに痛々しいのは
- なぜだろう
- 六十年前
- 仕掛けた戦争に敗れた私の国は
- 二度と戦争をしないと世界に約束していきてきた
- その思いが憲法九条に刻まれている
- その九条が一握りの人間の欲のために
- 部魔だという
- 日々
- 西へ西へと
- その信頼を失っていく闇のかなたに
- 観測衛星がとらえた
- 水の星地球が
- 青くかがやいている
- 「九条」はこの星の水からうまれた
- 一粒の真珠かもしれない
- この星に生きる生命の代償からうまれた
- かけがえのないもの
- いまもなお
- この瞬間に
- ・・・・・・・・・・・
- (※はかり知れないほどの死者のかたわらに人間の悲嘆の山並みが続いている)のだから
- ※「荒れ地の四十年-ヴアイツゼツカー大統領演説」(岩波ブックレット)より
- 戦争前夜
- 治安維持法による弾圧で
- 不当にも 逮捕 投獄され
- 過酷な 拷問 虐待の末にも
- こころざしを曲げずに死んでいった
- 伊藤千代子は
- まだ二十四歳の若さ
- 人々への深い愛に
- ただ ひたすら 生きただけなのに
- なぜなの どうして と
- むごい時代に問う
- 伊藤千代子顕彰碑とお墓は
- 長野県諏訪市湖南龍雲寺霊園にあって
- 諏訪湖から吹いてくる風に いつも
- くるまれている
- 風や 太陽を運ぶ労働者は
- どの時代にもいて
- 千代子の前に
- 花のこころをおく
- あなたのこころざしをつぎます
- 今 あやふくなってきている
- 平和憲法 九条を
- みんなで守りぬきます
- みんなのくらしが見える 山の中腹
- 小さな墓石の下で
- やっと 自由になれた 千代子
- 白い野の花のような千代子
- あなたの背を抱くのは
- 故郷 そして 平和
- (2005年7月3日)
こころざしの歌 畠山忠弘作詞
畠山忠弘さん
作曲の「こころざしの歌」
楽譜を掲載しました
ヂシパリの花がゆれている
北海道 白老町 高橋 篤子
一粒の真珠
北海道 白老町 高橋 篤子
花のこころをおく
北海道 苫小牧市錦岡 伏木田 土美